中国全土から業界関係者が大集結! 大規模マーダーミステリーイベントをレポート

2019.10.24

VR空間から失礼します。水谷です。

中国ではマーダー・ミステリー・ゲーム(以下、MMGと略称)の新しいシナリオが日夜作られておりますが、そのほとんどは店舗向けに提供されているものです。一般消費者向けにパッケージ販売されているものは、体感では全シナリオ数の1%未満です。

そうなると店舗として悩ましいのは、どうやって自店舗に導入するシナリオを選ぶのかということ。発表されたばかりのシナリオは口コミの評判も蓄積されていないため、作者やメーカーなどの周辺情報から判断するしかありませんが、店舗に限定的に供給されるシナリオはそれなりの値段になりがちで、ギャンブル性が高い。その解決策の一つが店舗向けの体験会イベントです。中国ではそのようなイベントが毎月のようにどこかで開かれているといいます。

10/10~12に重慶で開催されたイベントに参加してまいりましたので、その模様をレポートしたいと思います。

参加したのは「山城秋聚」というイベント。

私はミステリアス・トレジャーというボードゲーム・MMGブランドの代表を務めておりまして、中国の「LARP」というMMGブランド(ややこしいですがそういう名前です)の日本向けライセンス仲介をやっているのですが、そのLARPが今回のイベントの主催者の一つという縁があって、参加させてもらうことにしました。

まず驚くのがその規模。重慶郊外のホテルを会場に数フロアを貸し切るというなんともぜいたくなイベントで、公式発表によれば118のパブリッシャーから266作のシナリオが集まり、店舗側の参加は1368店にも上るとのこと。これは最近開催された業界関係者向けイベントの中でも最大級だとか。

↑会場となったホテル「民生大酒店」。ロビーと一部フロアがイベントのため貸し切られた

↑ホテルロビーが全面的にイベント仕様に!

↑開会式入場開始前の人込み

↑主催各者のあいさつや……

↑業界関係者のパネルディスカッション

主催者あいさつに加え、店舗運営者やGM講座講師の経験共有、パネルディスカッションなどが行われた開会イベントも見ごたえのあるものではありましたが、大多数の来場者の目当てはもちろんシナリオの試遊。10/10の夜と10/11・12の昼夜で計5回、公式に試遊の時間が用意され、会場のホテル160室が試遊用に供されたほか、それとは別に会場外で参加者を募るパブリッシャーも数多くいました。

↑試遊用に数フロアを貸切。ぜいたく!

↑ホテルの一室が即席セッションルームに

↑紙とペンはイベント名が入った特注品

↑WeChatの小程序(アプリ内アプリ)で作られた予約用システム。LARPを始めとする人気パブリッシャーのシナリオは秒で満員に

↑イベント用チャットグループは試遊参加者を募集する投稿がひっきりなし

私も言語の壁はありながらも2作の試遊に参加させてもらいました。

『烏鴉之血(カラスの血)』は横浜のとあるミュージックバーを舞台にしたシナリオ。酒・権力・ドラッグ・音楽の夢あたりがキーワードで、割とドロドロしていました。ある日本の曲がキーとして登場するのでいま私はSpotifyでヘビーリピートしています。

登場キャラが「世にも奇妙な物語」のような不思議体験をするシナリオで、プレー後の感覚はミステリーよりも一般青春小説の読後感に近い。

中国語では、ミステリー要素の強いストーリーを「本格」というのに対し、このような非現実的・非科学的な要素の含まれるストーリーを「変格」と表現し、すでにシナリオ類型の一つとして確立されています。

『碟影重重』はこのイベントの共催団体である企鵝Paのシナリオ。UFOが米軍に回収されたというロズウェル事件を元にしたシナリオで、UFOや宇宙人などのSF要素があるほか、当時の時代背景を反映した国家間の緊張関係も関わっています。登場人物もFBIや米軍関係者などで、『Xファイル』のような雰囲気が好きな方にははまりそうですが、エモーショナル要素もありました。

どちらのシナリオも本格的なミステリーという感じではなく、MMGと別ジャンルを掛け合わせたという感じで、改めてMMGというジャンルの幅の広さを感じました。ストーリー展開についても、「誰々が殺されました。さあ犯人を探しましょう!」ではなく、初めは殺人以外の事件の調査を行い、その後に事態が変わって殺人が起きるという構成になっており、より全員でストーリーの進展を感じられるようになっていました。

もう一つ、簡単に体験させてもらったのがこちら。

なんとVRのシナリオです。開発したのはこのイベントの主催者の一つ、探案筆記。探案筆記はスマートフォン用のMMGアプリを開発しているほか、中国のMMGブームの火付け役になったと言われているネット配信番組『明星大探』へのコンテンツ提供もしている人気パブリッシャーです。

冒頭のこちらの写真はこれを体験させてもらったときのものです。私が体験させてもらったのはリアル脱出ゲームモードで、MMGモードはタイミング悪くできなかったのですが、証拠の捜査などをVR空間で行うとのことです。

実はこのVRについては開会イベントで『明星大探』制作班の方も話していたのですが、有名俳優をNPCとして登場させるなどの演出も考えているとのこと。没入感以外の部分でも可能性がありそうです。

なお、こちらのシナリオはホラー要素があり、ホラーが苦手な私は嫌な汗をかきながらプレーしていました。いま後ろから不意に押されたら発狂するな、VRゲームをプレーさせている間に後ろから刺すっていうシナリオありそうだな、とか考えていました。

企鵝Paブース

↑『業火館殺人事件』のパブリッシャー、夢天遊

↑夢天遊の新作『奉養』はタイが舞台の仏教ホラー

さて、冒頭でお伝えしたようにこのようなイベントは毎月のようにどこかで開かれていますが、来月には上海で一般向けのイベントが開催されます。このイベントには日本のミステリー作家・島田荘司氏を含む複数のミステリー関係者がゲストとして中国国外から招かれています。興味のある方は(言葉の壁はありますが)ぜひ行ってみてはいかがでしょう!

↑最後に重慶らしい写真を1枚

T.Mizutani

フリーランス中日翻訳者。中華圏のアナログゲーム情報を伝えるnote「中華卓上遊戯情報部」を運営したり、ボードゲームやマーダーミステリーゲームの中日翻訳を手がけたりしています。ミステリアス・トレジャー代表。
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