ファンタジーテイストの異色作『海の娘』

2019.09.23

 

マーダーミステリーゲームには大きく分けて「クローズド型」と「オープン型」という2つのタイプがあります。

クローズド型:キャラクターごとのセリフが決められており、全員で読み合わせることでストーリーを進めていく形式。

オープン型:カードで表現された手がかりを引いたり、他人と情報を交換したりしてリアルタイムで捜査を進める形式。『王府百年』、『約束の場所へ』などもこのタイプに該当。

マーダーミステリーというジャンルが登場した当初はすべてクローズド型で、オープン型というのは比較的最近登場した形式だと言われていますが、このように複数のタイプが存在するのであれば、当然ハイブリッド型というべきものも登場してきます。

最近、謎之推理社(『王府百年』の出版元)から出版された『海的女児(海の娘)』というタイトルもハイブリッド型に当たるのですが、これがなかなか異色な作品だったのでご紹介します。

シナリオの作者はマーダーミステリーのレビューで有名な「五月愛推理」というWeChatアカウントを運営している五月(Mayday)さん。そう聞くといかにも本格的なミステリーを作りそうなものですが、パッケージを見てもわかる通り、テーマはゴリゴリのファンタジー。そもそもタイトルの『海的女児』というのはアンデルセンの童話『人魚姫』の中国語タイトルをそのまま流用したもので、ストーリーも『人魚姫』が元になっています。「マーダーミステリー」といいつつ「ミステリー」の要素はかなり薄いです。

プレーヤーキャラは7人で、錬金術士、灯台守、王子などやはりファンタジックな設定のキャラが集まっています。

物語の舞台はとある王国のはずれにある漁村。この村では毎年冬になると王族がやってきて海の神に祈りを捧げる祝典を夜に開くのですが、このゲームのストーリーはその祝典の前夜から始まります。

キャラのシナリオの構成は、

キャラの背景(非公開情報)
第1章(祝典前夜の会食のシーン、全員で読み合わせる)
第2章(祝典開催当日昼のシーン、非公開情報)
第3章(祝典中のシーン、全員で読み合わせる)
第4章(祝典終了後・事件発生のシーン、非公開情報)

となっており、この後に全員での議論や密談を経てエンディングとなります。

事件発生前はおおむねクローズド型、事件発生後はオープン型で、いわば事件編と解決篇を体験する形式になっています。

謎解きの難易度はかなり高く、というかほぼ手がかりがなく、ロールプレイに振り切ったシナリオという印象を受けました。キャラのハンドアウトにロールプレーの指針が書いてあったり、事件発生後の議論のフェーズで特定の条件を満たすと特殊なシーンの読み合わせが発生するというシステムがあったりするという点からもロールプレー重視の意図がうかがえます。

『王府百年』や『約束の場所へ』のようなものをイメージすると間違いなく面食らうシナリオ構造ですが、なるほどこういう作り方もできるのかと感心してご紹介した次第です。

さて、みなさんが気になるのはどこかでプレーできるのかというところだと思いますが……私が……そのうち……訳す……かも知れません……。

 

T.Mizutani

フリーランス中日翻訳者。中華圏のアナログゲーム情報を伝えるnote「中華卓上遊戯情報部」を運営したり、ボードゲームやマーダーミステリーゲームの中日翻訳を手がけたりしています。ミステリアス・トレジャー代表。
他の執筆記事はこちら